市民インタビュー
銅に刻む、光と影の版画の世界
版画家 石山 直司 (いしやま なおじ/新居浜市出身)さん
新居浜市出身で、北欧・フィンランドで版画家として活動する石山直司さん。「新居浜市美術館開館10周年記念」として、出身地・新居浜で初めての展覧会「石山直司展」を開催。銅の街・新居浜から世界に羽ばたいた銅板画家・石山さんに、フィンランドでの暮らしと銅版画についてインタビュー。
日本から飛行機で約13時間。森や湖が日常のすぐそばにあり、澄んだ空気が人々を魅了する北欧・フィンランド。同国のユヴァスキュラ市で版画家として活動する石山さんは新居浜市出身。大学時代に版画と出会い、版画家として日本で活動を始めたのが1994年。2003年、38歳の時文化庁の在外研修員としてフィンランドへ渡航し、それ以降ユヴァスキュラ市で制作活動を続けている。
「なぜフィンランドなのか?とよく聞かれるが、未だ答えは見つからない。ただ、22年間快適に過ごせている」居心地がいいのは「フィンランド人と日本人は気質が近いからではないか」という。
どちらも穏やかで静かで、そして忍耐の考えがあるからこそ優しい。違いをしいて言えば、日本人は他人に対して心配したり、すぐ側に寄り添う優しさがある。対してフィンランド人は深く介入せず、端から見守る優しさがあるのだという。「芸術家は独自の世界観があるからこそ、周囲とのコミュニケーションが苦手な人も多い。フィンランド人はそれを良しとし、受け入れてくれる風潮があるから居心地がいいのかもしれない」と笑う石山さん。実際にフィンランドではアートが身近で美術館やギャラリーも多く、作家活動をしている人が多い。石山さんも現在は市が運営する美術館に併設された工房で職員として働きながら、作家活動をするという生活を送っている。
石山さんに版画の魅力を聞くと「少しずつ仕上がりが目に見えてくる油絵などに対して、銅版画は仕上がりを想像しながら描く。プレス機から銅板を外した時、ようやく作品が見られるという感動は版画だけ」という。その版画の中でも『ドライポイント』という技法の研究をし続けている石山さん。ドライポイントは板をニードルで直接削っていく最もシンプルな手法で、版画の道では誰もが一度は通る『基本』の技法だ。その後、他の様々な技法を試していき、ドライポイントを続ける版画家は少なく『忘れられた手法』と石山さんは表現する。
しかし『かすれ』のような線を描けるのはドライポイントならでは。その線が生み出す光と影の絶妙なバランスこそが最大の魅力だという。
INTIMATE LANDSCAPE(ドライポイント 2012年)
『石山直司展』では、版画家人生30年の中で制作してきた約130作品を展示とともに公開制作も見学できる。
「作品ってどうしてもその時のその感情があらわになる。石山直司という版画家の人生の苦楽が作品として表現されていると言ってもいいかもしれない。そんな版画家の『すったもんだ』を感じてほしい」と笑った。
銅の街『新居浜』で、銅版画の世界を覗いてみよう。
フリーペーパーHoo-JA! 2025年9月13日号 Vol.505 掲載
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新居浜市美術館 開館10周年記念展Ⅲ
「石山直司展」 「ルーヴル美術館の銅版画展」(同時開催)
■日時 2025年9月9日〜10月19日 9:30〜17:00
■場所 新居浜市美術館 (あかがねミュージアム2F)
あかがねミュージアム https://akaganemuseum.jp
石山直司 https://www.jionarto.com