市民インタビュー
「四国大落語祭」開催。想像して笑う、落語の魅力。
アマチュア落語家・精神科医 芸乃虎や志 げいの こやしさん
アマチュアとは思えないほど、話芸で人を惹きつける芸乃虎や志 (本名:枝廣篤昌)さん。普段は四国中央市・豊岡台病院の院長として患者さんに向き合い、週末は社会人落語家として全国の高座に上がることも多い。そんな虎や志さんが主宰する「四国大落語祭」について聞いた。
『精神科医』と『アマチュア落語家』の2つの顔を持つ芸乃虎や志さん。虎や志さんと落語の出会いは中学時代。当時はラジオやテレビで落語が流れることも多く、落語が身近にあった時代。
中学時代に入った『演芸クラブ』で、部活の顧問がテープで聴かせてくれた『死神』という落語に感動、落語の魅力にハマった。この『死神』、医者が題材の噺であり不思議な縁である。大学時代は落語研究会に入り、話芸の世界に没頭。学生の頃は「話と扇子と手ぬぐいだけで人を笑わせられるってすごいな」という印象だった。しかし、今は「落語は人の想像力をどこまでも広げてくれる、不思議な文化と感じる」という。聴く人の想いや状況で、感じ方、捉え方が変わり、話し手がトーン・抑揚で聴く人の想像力を広げることができる力を持つ。テレビや映画と違って、情報量が少ないからこそ、聴く人の想像空間は無限大だ。
ここで精神科医としての視点で落語について聞いた。
「現代人は忙しく、考えることが多い。頭の中が渋滞している状態が続いているのと同じこと。落語を聴いて想像力を広げることで、頭の中を落ち着かせ、整理することができる。そういった面でも、落語をぜひ聴いてほしい」と話す。頭を空っぽにして落語を聴き、思いのまま笑う。そんな頭の休息の時間も大切なのかもしれない。
「笑いを広げたい」という思いで始まった『四国大落語祭』。
2004年「地元・新居浜で落語文化を広げたい」と、虎や志さんが福岡の国民文化祭で競演したアマチュア落語家仲間に呼びかけた。賛同したメンバーが県内外から集まり、2005年からスタート。2024年で17回目の開催となる。県外から来る演者も「新居浜・西条の人の雰囲気が話やすく、とても心地がいい」と毎年集まってくれる。次第に増えていった芸乃一門の弟子たちも高座に上がり、今年の高座に上がるのは計13名。数カ所で行われる寄席ごとに出演者が入れ替わり、すべての寄席がまったく違う空間となる。寄席という小さな空間だからこそ、話し手の想い、そして聴く人の感情が伝わり、会場に一体感が生まれる。落語は敷居が高いものと思われがちだが、聴く人の想像力次第で誰もが自由に楽しめる。
見たものをそのまま受け取るテレビなどとは大きく異なり、想像しながら聴く落語の世界。アマチュアとはいえ、虎や志さんは「第2回社会人落語日本一決定戦」で日本一に輝き、全国から集まる出演者も、社会人落語大会で優勝経験多数の強者ばかり。寄席で聴く落語で、まるで物語の現場にいるような臨場感を体感し、日々のストレスを忘れてひと笑い。落語の面白さに魅了されること間違いなし。
最後に「読者の方に一言」と聞くと、院長から噺家の顔になり「だまされたと思って来てみて」と、いたずらっぽく笑った。
※四国大落語祭は毎年7月頃、新居浜市と西条市を舞台に開催。また、芸乃虎や志として、年数回『芸乃一門落語会』の開催や、新居浜で開催される上方落語家の独演会にもゲスト出演。
フリーペーパーHoo-JA! 2024年7月13日号(Vol.477)掲載