市民インタビュー
演劇の生の体験を「あかがね座」で
新居浜ふるさと観光大使作家・演出家 鴻上 尚史(こうかみ しょうじ (新居浜市出身))さん
新居浜市出身の作家・演出家、鴻上尚史さん。主宰する劇団『虚構の劇団』の解散公演となる『日本人のへそ』が、11月12日・13日にあかがねミュージアムの『あかがね座』で開演される。あかがね座では5度目の公演。今回は鴻上さんに新居浜での学生時代の思い出や、「あかがね座」誕生秘話を聞いた。
あかがねミュージアムの多目的ホール『あかがね座』。その名付け親が、新居浜市出身、作家・演出家の鴻上尚史さん。計画段階からあかがね座の誕生まで見守ってきたひとりだ。「あかがね座は、俳優から『あの劇場に立ちたい』とリスペクトされるような劇場にしたい」、そんな想いで誕生した。
「劇場は使うだけのものではなく、育てるもの」と、鴻上さん。毎週どこかで演劇が観られる首都圏でも、満員が続く劇場はそう多くない。観客で満員になることが俳優の喜びであり、劇団が再び公演してくれることで、観客も喜ぶ。そんな劇場が、俳優からリスペクトされる劇場へと育っていく。それだけではなく、発表会など気軽に使えて、人の記憶にも残っていく。
「そうやって、思い出というカタチで愛着を持ち続けてくれることも大事。だからこそ大きなホールではなく、どんなイベントも満員にできるよう、250席程度のホールがいいとアドバイスをしました」
鴻上さんの想いはぴったりハマり、あかがね座は満員となるイベントが続いている。
鴻上さんが演劇にのめり込んだのは中学生の頃。週1のクラブ活動で『演劇クラブ』を立ち上げた。活動が楽しくなり、最終的には放課後のテニス部の活動を休んでまで演劇にのめり込んでいった。新居浜西高に進学後も演劇部に所属。演劇のおもしろさは「役者が舞台の上では普段と違った人になること」という。普段偉そうな先輩が全然演技ができなくて残念だったり、物静かな人が艶やかな演技をしてみたり。人間をひと皮むくメディアだと感じた。
そんな高校時代、『全国演劇コンクール』が開催されていることを知った。当時愛媛からは私立高校1校しか出場していなかったが、高校2年の時、県内県立高校として初めて出場した。しかし、これが後に大問題となる。
全国では当り前だっだ演劇コンクールが、愛媛だけはあいまいな理由で禁止されていた。その影響で高校3年生の全国演劇コンクールへの出場は叶わず、悔しい想いも経験した。
時は流れて2022年。愛媛でも演劇の文化が少しずつ受け入れられ、今年の全国演劇コンクールでは松山東高が全国優勝。ようやく愛媛も演劇のトップ争いに入れる環境が整ってきた。今年の全国演劇コンクールの審査員長を努めた鴻上さん。「学生たちを目の前で見ていて、時代が変わり、地元愛媛での演劇文化が発展しはじめたことが本当に嬉しい」と笑顔で語る。
鴻上さんが幼少期の新居浜は、新居浜演劇鑑賞協会(当時は「労演」)という団体があり、盛んに演劇を新居浜に誘致していた。年に1~2回は家族で舞台を見にいった。当時、文化センターで体感した衝撃は今でも忘れることはない。だからこそ、「地元新居浜の人には、より良い『演劇』という芸術に親しんでほしい」と、自身が主宰する虚構の劇団を率いて、過去4回地元公演を行ってきた。
今回の公演は『日本人のへそ』。人気劇作家の井上ひさし氏のデビュー作と言われ、ミュージカルのような歌と踊りが華やかな1幕、歌のない2幕で構成。そのギャップや遊び心は「まるでおもちゃ箱をひっくり返したような作品」と鴻上さん。今回は3年ぶりの公演にして、惜しくも『虚構の劇団』解散公演。毎回楽しみにしてくれているファンの人たちに楽しんでもらえるように、稽古にも力が入る。
「虚構の劇団のファンはもちろん、中萩中学校時代に好きだったTさん、高校時代にお付き合いしていたNさん、二人にはぜひ観に来てほしいな~」と笑う。 演劇を初めて観る人も楽しめる作品だから、演劇を生で『体感』してみてはいかが。
虚構の劇団 解散公演「日本人のへそ」
2022年 11月12日(土) ・11月13日(日)
あかがねミュージアム「あかがね座」で公演
フリーペーパーHoo-JA! 2022年11月12日号 掲載