市民インタビュー
100年の時を刻むアンティークボタンの世界
染色作家 ・ ボタンコレクター 加藤 喜代美(かとう きよみ/新居浜市出身)さん
新居浜出身の染色作家・加藤喜代美さん。布を藍で染め、作品をつくる。そんな衣類に関わる暮らしの中から生まれた趣味「ボタン収集」。加藤さんが集めた世界中のボタンを展示する企画展「ボタンデザイン〜ボタンにおける装飾の美たち〜」が、新居浜市美術館で3月1日まで開催中。歴史と文化を刻むボタンの魅力について加藤さんに聞いた。
加藤さんの手元には、きらりと光る小さな芸術作品がある。それは19世紀から20世紀にかけて作られた海外の古いボタン。ひとつひとつに施された繊細な細工は、かつての職人たちの息遣いをも感じさせる。
加藤さんが最初に装飾ボタンと出会ったのは20年ほど前。よく訪れるという雑貨屋さんでガラス製のボタンを見つけたのが始まりだった。細かく施されたカット加工が光を四方八方に反射させ、ボタンとは思えないほどの美しさ。その出会いをきっかけに興味を持ち、染色作家として海外に訪れる度、蚤の市やアンティークショップでボタンを収集するようになった。気がつけばコレクションは1万5千点にものぼる。中でも古いものを大事にする文化があるフランスやイギリス、チェコなどのヨーロッパでは、蚤の市を訪れると200年以上前の古いボタンが並んでいることもある。集めたボタンを眺めていると、単なる装飾品という枠を超え、当時のヨーロッパの情勢が鮮やかに浮かび上がる。「ボタンひとつをとっても、その時々の歴史が色濃く反映されているんです」
例えば、19世紀の貴族文化を象徴するような、手描きの陶器製や繊細な貝やメタル、ガラス製のボタン。当時はボタンそのものが富や権力の象徴であり、宝石のように扱われていた。しかし、戦争の足音が聞こえ始めると、その姿は一変。金属は軍事に転用され、代わりに初期のプラスチックや木といった身近な素材でボタンが作られるように。「素材が変わっても、そこには当時の職人たちが精一杯の美しさを込めようとした工夫の跡があるんです。物を大切にするヨーロッパの文化と、どんな時でも美しさを諦めない人の底力を感じます」と加藤さん。
今回の展示の中でも加藤さんがぜひ見て欲しいのが「リア・スタン」というフランスのデザイナーが1960年代に作ったボタン。何層にも重ねたセルロイドをカットして作っている。その色彩の美しさやデザイン性の高さは、現代ではほぼ見ることのできない、まさにアートのような作品たちだ。
「今は簡素なボタンだったり、そもそもボタンが付いていない服も増えましたよね。だからこそ、このボタンという小さなものに情熱を注
いで作り、そしてそれを大切に使ってきた人たちがいたという事実を知ってほしいんです」便利で効率的なものが溢れる現代。手間暇をかけて作られた装飾ボタンは、放っておけばいつか本当に失われてしまうかもしれない。この小さなボタンの中に、宝石のようなカットを施し緻密な絵を描き、素材の美しさを引き出す。そこには、効率とは無縁の『美』が宿っている。
「100年経っても失われなかったこの輝きを、ぜひ間近で見ていただきたい。この小さな芸術品たちが、誰かの記憶に新しく刻まれることで、また未来へ繋がっていくと思うから」染色作家として、ものづくりをしているひとりとして、加藤さんのボタン展は、私たちが忘れかけている「物を慈しむ心」を、もう一度呼び起こしてくれるかもしれない。
企画展 BUTTON DESIGN 〜ボタンにおける装飾の美たち〜
■日時 2026年3月1日(日)まで開催
■場所 新居浜市美術館 (あかがねミュージアム2階)
■問い あかがねミュージアム運営グループ 0897-31-0305
■料金 300円 (大学生以下無料)
https://akaganemuseum.jp/
フリーペーパーHoo-JA! 2026年2月14日号 Vol.515 掲載
