市民インタビュー
【市民インタビュー更新】舞台に咲く女方(おんながた)の大衆演劇役者
舞台役者 昴 斗真 (すばる とうま/新居浜市)さん
全国を巡る大衆演劇の役者として活躍する昴斗真さん。その中でも女方を得意とし、柔らかな所作で観客を魅了する。1年のうちでも数える程しか居られないが、現在も新居浜市在住。公演の合間には必ず帰ってくる程、新居浜の地が落ち着くという。全国を巡演する旅役者・昴斗真さんの生活を聞いた。
きらびやかな衣装を纏い、観客を魅了する女方。時には風を切る迫力の殺陣を魅せる立役。全国の劇場を巡る大衆演劇グループ『下町かぶき組』の役者、昴斗真さんは、新居浜市が生んだ表現者のひとりだ。
一年の大半を旅先で過ごす「旅役者」という生き方。約1カ月ごとに公演場所が変わり、北は北海道から南は九州まで日本全国を巡る。芝居小屋も明治時代からあるような歴史的建造物で公演することもある。「冬の北日本はマイナスの世界。舞台の床板の隙間から流れ込む冷気で、セリフを吐く息が白くなるんです」と笑う昴さん。そんな過酷な連日の公演と移動こなす昴さんにとって『故郷・新居浜』は唯一無二の場所。
「瀬戸大橋を渡り山と海が見えると、心がすっと軽くなる。都会の乾燥した空気や喧騒から離れ、この地の風土に触れることが、次の舞台への最大のリセットになりますね」と語る。
そんな昴さんの演劇役者としての原点は、新居浜時代に打ち込んだ剣道にあった。大学時代に門を叩いたのが芸能の世界。当初はテレビドラマ『ごくせん』で、いじめられっ子役を演じるなど映像の作品も経験したが、最終的に彼を惹きつけたのは舞台だった。「当時はまさか役立つとは思っていませんでしたが、小学校から続けていた剣道の所作が舞台での殺陣に繋がったんです。竹刀を振っていた経験が、今の『役者』という居場所に導いてくれた。背の低ささえも、女方としての美しさを引き立てる武器に変えることができたのは、僕にとってミラクルでした」
しかし、その道は決して平坦ではなかった。忘れられないのは、役者人生の幕開けともいえる東京・歌舞伎座での経験だ。「右も左もわからない時期に、二代目・市川猿翁さんという大御所と同じ舞台に立つ機会をいただきました。そこで、とんでもない失敗をしてしまったんです。雲の上の存在だった名優の圧倒的な存在に、自分の足が舞台についていないことを痛感しました。あの時、鏡の前で一人泣きながら自分と向き合った経験が、今の僕の役者としての心構えを作っています」
挫折の淵にいた彼を救い、育て上げたのが、師匠である『下町かぶき組』主宰の松井誠氏だ。
「師匠は僕が失敗するたびに、あえて次のチャンスを与えてくれました。以前愛媛での凱旋公演で、刀が鞘(さや)に収まらないという大失態をしたことがあります。友人も観に来てくれている中での失敗に、僕は顔面蒼白でした。けれど師匠は僕の熱意を汲み取り、次もまた同じポジションを任せてくれた。その懐の深さと鶴の一声があったから、今の僕があります」
伝統を守りつつも、観客を楽しませるためならコントも歌もこなす。そんな下町かぶき組で、昴さんは今日も『生』の舞台にこだわり続ける。
「AIには真似できない、その瞬間だけの温度感を届けたい。僕らは、生身の人間同士が向き合うことでしか得られない『感動を与えたい』という思いで舞台を作っています。大衆演劇をまだ見たことがない方も、ぜひ構えずにフラットな心で遊びに来てください。テレビよりも面白い、最高のステージをお見せします」
故郷でたっぷり英気を養った昴さん。次なる舞台、そして師匠から受け継いだ『芸』を次世代へと繋ぐ強い決意が、力強く輝いていた。
フリーペーパーHoo-JA! 2026年3月14日号 Vol.514 掲載
