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市民インタビュー

美しい漆芸を後世へつなぐ

漆芸作家  菅 奈津子 (かん なつこ/新居浜市)さん

新居浜市在住で、西条市に工房を構える漆芸(しつげい)作家の菅奈津子さん。箸や皿などの日用漆器とともに、伝統的な工芸漆器を手がける新進気鋭の若手作家だ。県外で修行し、愛媛に戻り作家活動をはじめて約2年。自然が身近にある愛媛では、アイデアがどんどん湧いてくるという。そんな菅さんに聞く「漆芸」への想いとは。

縄文時代から続く日本の伝統工芸『漆芸』。その美しさに魅了され、後世へ伝統を伝えていくべく、若手漆芸作家として活躍をしている菅奈津子さん。

菅さんが漆芸作家を目指しはじめたのは高校生の頃。きっかけは母親の影響で訪れた美術館。そこには華やかな装飾が施された漆の工芸品がたくさん展示されていた。漆で作られた華やかな箱や器は、かつてお殿様への献上品として作られていたもの。漆芸に魅了された菅さんは「漆の工芸作家になりたい」と、香川県漆芸研究所に進路を決めた。同研究所は漆芸に特化した学校のようなところで、全国でも石川県輪島市と高松市の2箇所にしかない。有名な輪島漆芸に比べて、カラフルで華やかな加飾(柄や色付け)が特徴的な香川漆芸。菅さんは、その中でも『彫漆(ちょうしつ)技法』という、最も複雑で難しいとされる技法で作品を作る。

漆器は幾重にも漆を塗り重ねて仕上げていくが、彫漆は表現したい色を何層にも塗り重ね、形が出来上がってから出したい色の層まで彫り、色を出していき、同時に装飾の形を彫る複雑な技法。箱の基本型を作り、麻布で形を成形し、1日1層ずつ漆を約50層ほど塗り重ねる。基本形が仕上がったら、色と形を出すために彫刻刀で慎重に彫り進む。1つの作品が完成するまで数カ月。気の遠くなりそうな作業に思えるが、菅さんにとっては苦ではなく「伝統工芸を受け継ぐという、やり甲斐を感じる仕事だ」と話す。

2022年には『日本伝統工芸展』に初入選。同展は文化庁が主催する漆芸の公募展で、重要無形文化財保持者、いわゆる『人間国宝』と呼ばれる作家も出展する。制作時は、応募への焦りと緊張感から失敗もあったという。徹夜で作業したり、師匠の力も借りたりしながら、なんとか作品を完成。そのこだわり抜いた作品が入選した時は「涙が止まらないほど嬉しかった」と話す。今では日本伝統工芸展への応募作品作りも、作家としてのモチベーションのひとつになっている。

とは言うものの、漆芸作家として「漆塗りに日常で触れる機会が減っていることに、危機感を持っている」という。今では漆器は高級品となり、デリケートに扱う人も多い。しかし、耐水性や断熱性、防腐性にも優れ、丈夫で何年も使い続けることができ、酸やアルカリなどにも強いため『衛生的な塗料』と言われるほど漆の良さは見直されている。今では食洗機で洗うことのできる漆器まであるというのだから驚きだ。

「何千年と受け継がれてきた、漆という伝統文化を無くしてはならない」と菅さん。

今後は一番身近な箸や皿などの漆器作りにも注力し、また漆器の普及にも力を入れるべく、ウェブショップの準備も進めている。

今年の日本伝統工芸展への応募作品は、『野鳥』をテーマに制作中。愛媛に戻って約2年、木々が生い茂る工房の庭には毎日のように野鳥が顔を見せ、制作のヒントを与えてくれる。菅さんの想いと技術は、これからも漆器の如く年月とともに幾重にも積み重なり、作品に映し出されるだろう。

フリーペーパーHoo-JA! 2025年3月8日号(Vol.493) 掲載

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