市民インタビュー
言葉を超える、ふたりの深い絆
猿回しパフォーマー 宇都宮 舞(うつのみや まい/新居浜市出身)さん
猿の華麗な芸と愛らしさ、そしてトレーナーとの小気味良い掛け合いで観客を魅了する、伝統芸能『猿まわし』。猿の『わかば』とコンビを組み、息ぴったりのパフォーマンスを魅せるのは、関西を中心に活躍する猿まわしパフォーマー 宇都宮舞さん(新居浜市出身)。宇都宮さんが猿まわしの道を進んだきっかけや、相方わかばとの9年間の歩みについて話を伺った。
猿まわしの起源は、遡ること1000年以上。当時の日本では「災いが去る」「病気が去る」といった意味合いから、猿には厄除けの力があると信じられていた。その後時代の流れとともに大道芸として定着。様々な歴史の転換点により途絶えかけた時期もあるが、今もなお全国各地で伝統は受け継がれ、人々を魅了し続けている。
宇都宮さんとコンビを組むのは、9才の猿の女の子 わかば。二人のコンビ名は『四季』(フォーシーズンズ)、わかばが生まれた2015年にコンビを結成した。公演では竹馬や八艘飛びなど華麗な大技を披露する一方、もぐもぐとおやつを食べたり、人間の子どものように宇都宮さんに甘えたりと、その愛らしさでも観衆を惹きつけるわかば。それに合わせた宇都宮さんのツッコミが笑いを誘う。二人の見事な掛け合いは、まるで言葉が通じているかのようだ。
どうして言葉の通じない猿と意思疎通ができるのか?宇都宮さんに問うと、「猿は感情を読み取るのがとても得意なんです」と教えてくれた。感情のこもった言葉には、ちゃんと反応を返してくれる。そうして褒めたり叱ったりを繰り返し、宇都宮さんとわかばは信頼関係を築いてきた。
小学生の頃から動物が大好きだった宇都宮さん。家では犬やハムスターを飼っていたが、動物園へ行けばずっと猿を眺めているほど、昔から不思議と猿に愛着を感じていた。高校卒業後は、とべ動物園の飼育員を夢見て動物飼育の専門学校へ進学。その入学式のステージで見た『猿まわし』に心を奪われた。
「飼育員になりたいと思っていたけど、人前でパフォーマンスしたり、お客さんと会話したりする様子が楽しそうで、自分にも合っている気がしました」
猿まわしのトレーナーに資格はない。専門学校在学中に1カ月の研修を経て、猿まわしのパフォーマンス会社『二助企画』へ就職。タイミングや相性など様々な縁が重なり、わかばとのコンビ結成が決まった。最初の2年間は技の習得のため、先輩トレーナー指導のもと毎日2~3時間練習。習得した技は30種類以上にも及ぶ。現在は土・日をメインに劇場や全国各地で路上公演を行っており、過去には拠点の関西からフェリーに乗って、北海道まで遠征したことも。
コンビ結成から9年。数々の大舞台を経験した四季だが、思い出深い出来事を訊ねると「公演そのものより、パフォーマンスを見てお客さんが涙を流してくれたり、頑張ってねと声をかけてもらえたことの方が心に残っている」と宇都宮さん。
各地の公演に足を運んだり、プレゼントを贈ってくれるファンもいる。「そんな風に応援してくださっている方々を見ると、『みんなのわかば』なんだと感じる。ファンの方のためにも、もっと成長したいと思えます」
「わかばは自分にとって娘であり、姉妹であり、パートナーであり、相方。言葉では言い尽くせないかけがえのない存在」と話す宇都宮さん。「わかばが頑張っているから自分も頑張ろうと思える。安心してぎゅっとくっついてくれるわかばの姿を見ると、自分の存在が認められたような気持ちにもなる」いくつもの訓練や舞台を乗り越えたわかばと宇都宮さんの絆は深い。
一般的に10才前後で引退することが多いという猿まわしの世界。「わかばももう9才。頑張れるうちに新居浜でも猿まわしをして、地元に恩返しができたらいいな」
宇都宮さんとわかばの名コンビが、新居浜で見られる日も近いかもしれない。
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フリーペーパーHoo-JA! 2025年2月8日号(Vol.491) 掲載